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仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)338号 判決 1985年6月26日

控訴人 本柳正孝

被控訴人 国 ほか一名

代理人 真壁孝男 藤原篤 ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決中、次の請求を棄却した部分を取り消す。被控訴人らは各自控訴人に対し金一四二四万五一八五円及びこれに対する昭和五一年七月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人国代理人は主文同旨の判決並びに仮執行宣言が付せられる場合に担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、被控訴人市代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴人において、自己の側の過失を考慮して第一審判決の変更を求める限度を前記控訴の趣旨のとおりとする旨述べ、次のとおり双方の当審における補足主張と証拠関係を追加するほかは、原判決の事実摘示(ただし、原判決四枚目表一行目の「であるとする」を「の現地であるという」に改める。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人

(一)  仙台法務局で閲覧に供されている公図(甲第二号証はその写し)上では「六一―六」は上下に分断されており、それぞれの個所に「六一―六」と表示されている。右事実は、後記甲第一四号証の一、三によれば、「六一―八九」が「六一―五四」に接している(同じく甲第一四号証の七では、「六一―八八」と「六一―八九」の位置が、甲第一四号証の一、三のそれらの位置と違つている)ことからみても明らかである。右の事実は、控訴人が昭和五四年五月一一日付証拠申立書により本件事件発生当時仙台法務局で閲覧に供していた本件土地の公図の複写したものの文書送付嘱託方を、嘱託先仙台法務局として申請し、更に昭和五五年三月二七日付上申書により、再度、本件土地の公図の複写の文書送付嘱託方を要請したにもかかわらず、被控訴人国において、その提出に応じなかつたことからみても証明十分であろう。なお、仙台法務局では、右昭和五四年五月一一日付証拠申立書で、公図送付嘱託の申立と同時に、控訴人が申請した地積更正ないしは分筆の登記申請をした際の添付書類たる土地の地積測量図(甲第一四号証の一ないし二〇)の取寄方には、即時、これに応じたことからみても、右証明が補強される。

(二)(1)  前記甲第二号証、被控訴人国提出にかかる「旧土地台帳付属地図の写し」とする図面(乙第六号証)、「仙台市固定資産税課備付図面の写し」とする図面(乙第七号証)、「仙台市保管の公図の写し」とする図面(乙第八号証、ただし、どこに保管中のものか不明)において「六一―一五一」と表示されている部分は、仙台市作成図の図面(甲第一二号証)では、甲第二号証、乙第六号証の下方の「六一―六」の部分に表示され、被控訴人市提出の集成図(丙第三号証)では、甲第一二号証の「六一―一五一」は形を少し変えて「六一―一四七」となり、「六一―一五一」は甲第二号証等とほぼ同じ位置にもどされている。なお、乙第七、八号証の下の部分には「六一―六」は存在しない。

(2) また、甲第二号証、乙第八号証によれば、「六一―一四七」は左側に記載してあり、乙第七号証によれば、右側の下部分に記載してあり、乙第六号証では、「六一―一四九」「六一―一五〇」が本件事件の核心であるわけであるから、本来なら、右土地部分を中心付近にして謄写すべきところ、わざわざ、右「六一―一四九」「六一―一五〇」を左側に寄せ、「六一―一四七」記載部分を隠蔽した。誠にアンフエアーな態度といわざるをえない。しかし、乙第六号証の右端に「六一―一四六」があり、甲第二号証、乙第八号証の「六一―一四六」からみて、乙第六号証のそれの左側に、「六一―一四七」が記載されていることは明らかである。

(三)  甲第二号証、乙第六、八号証の「六一―一四九」「六一―一五〇」の右側にある「六一―五三から六一まで」は、甲第一二号証、丙第三号証では、全く別の部分に存在している。なお、丙第三号証の「六一―一七六」の下方に「六一―一四七」が記載してあり、乙第七号証をも参考にすれば、甲第二号証、乙第六号証の下方の「六一―六」は、本来「六一―一四七」となるべきものではなかつたかとも思料される。

(四)  右(二)、(三)のように「六一―一四七」と「六一―一五一」の記載部分の違い、公図と実測の違い等を前提として、本件につき考えてみると、本件事件発生の当時、市役所保有の実測図(集成図)でさえも間違いがあることを考え合せ、素人である控訴人らに「六一―六」の正確な場所の特定を求めることは至難なことであつたといわなければならない。

(五)  固定資産価格決定通知書(甲第三号証)が地方税法四三六条に基づいて仙台市長から仙台法務局あてに通知したものであり、右通知は登録免許税の徴収等のために行政庁相互間の連絡といつた性質のもので直接私人に対し不動産の価格を証明することを意図したものではないとしても、本件土地の固定資産価格を修正したのは、昭和五一年一二月二一日であるから、仮に、本件貸付日である昭和五一年五月ころに、控訴人ないしは「六一―六」の所有者加藤利正らが、「六一―六」の土地の評価証明書交付申請をすれば、甲第三号証と同一内容の評価証明書が被控訴人仙台市から交付されることは自明のことである。したがつて、それは私人に対する関係では、損害賠償責任を根拠付けるべき違法性を帯びることになる。

(六)(1)  一般に土地を担保に金員を貸与する場合には、貸主は、その土地の担保価値に重点を置いて調査するものであり、土地の売買のように境界面積等を正確に調査することはほとんどなく、これらについて強い関心を示さないのが一般であつて、面積については目分量で、形状、境界についても現認するのみが普通であり、公図、地図を持参したり、測量士等の専門的知識を有する者を同道するなどして場所の特定をすることまではしないのが通例である。

(2) 一般に、取引関係は、当事者間の信頼関係のうえに成り立つているものであつて、最初から人を騙してやろうとして取引をするのは異例のことである。金員の借主側が担保土地を案内するとき、貸主側は担保土地と異なる土地を案内するはずがないという前提で取引するものである。

(3) これを本件につきみるに、本件土地の所有者たる加藤利正及びその前所有者たる有限会社米沢支所の社長の兄弟である清井富次も、「六一―一五〇」「六一―一四七」の現地を本件土地と考えて現地案内をしたもので、控訴人の代理人らを騙して故意に別の土地を案内したわけではない。

(4) 加藤利正及び清井富次は、「六一―一五〇」「六一―一四七」の現地を本件土地と信じていたからこそ、その説明に何ら不自然な点がなかつたものであり、控訴人の代理人らとしては、本件土地の登記簿謄本と評価証明書(現実には甲第三号証の固定資産価格決定通知書)を持参して、本件土地の現地であるとして「六一―一五〇」「六一―一四七」の現地を案内されたものであり、右各書面から担保土地の大体の面積と担保価値を確定したうえ、控訴人の代理人根本良文と鈴木規之は、右現地案内された帰りに仙台法務局に寄つて公図を閲覧し、公図の「六一―六」のうち訴状添付図面オレンジ斜線部分が、現認した「六一―一五〇」「六一―一四七」の現地とほぼ同一地形であり、同等の面積を有するものと思料されたので、右斜線部分(図面上、上下に二分された「六一―六」の上方の部分)のみを「六一―六」と考え、「六一―一五〇」「六一―一四七」の現地を「六一―六」土地と信じたものであり、もし、公図に「六一―六」が正しく記載されておれば、控訴人の代理人らとしても本件金員を貸与することはなかつたのである。

(5) 特に、本件においては、元地である「六一―六」の分割後の他の地番の位置、形状、境界線、面積等が概略現況と同一であるのに、分割後の「六一―六」のみが著しく現況と相違している点が特異な点である。

(6) 被控訴人国が、公図の正確性について縷々のべていることは、一般に公知の事実であり、したがつて、控訴人の代理人根本良文及び鈴木規之も、また、公図を全面的に信用したものではなく、概略公簿上の面積と同一で、地形も現認した土地に概略相当するものであつたからこそ、本件土地の担保価値を誤つたものであつて、公図上「六一―六」が、現況と概略同一のものとして表示してあれば、本件土地の担保価値を誤ることはなかつたのである。

(七)(1)  登記官の実地調査についても、本件土地付近の更正、分筆、これが資料である甲第一四号証の一ないし二〇の地積測量図を前提とするかぎり実地調査すべきであるとのべたものであり、すべての事例において実地調査すべきであるといつているわけではない。

(2) 本件において、実地調査しておれば、「六一―六」の正しい地積を表示することができたはずであるばかりではなく、公図上の表示も概略正しいものを表示し得たはずである。

(3) 甲第一四号証の三、七、一三、一五、によれば、「六一―六」が甲第二号証のごとく、東南部分に残存するのは、不自然であり、甲第一四号証の七、一九によれば、「六一―六」が甲第二号証のごとく、北西部分に残存することも不自然である。

(4) 以上の事実を総合すれば昭和四一年一〇月二七日の地積更正の誤りに気付くべきであり、公図に分筆線を記入するについても、分筆線の記入により東南及び北西部分の双方に「六一―六」を残存することのないようにするにはすでに分筆線を記入した公図を訂正して右のごとく残存させないようにすべきか、仮に、然らずとするならば、甲第二号証の東南及び北西部分に残存せる「六一―六」を文字でこの部分につき双方が一筆の土地であることの注意を喚起すべきであり、特に元地「六一―六」の分割後の他の地番の位置、形状、境界線、面積等が概略現況と同一であるのに、分割後の「六一―六」のそれらのみが現況と全く異なる場合はなおさらのことと思料する。

(八)  本件は被控訴人仙台市の本件土地の固定資産価格決定の誤りと被控訴人国の公図作成上の誤りに基因し、これらが複合して控訴人らの過信を増幅させたものである。公文書を前提とする場合一般にこれを信用し、その結果、その調査が少しく不十分になることがあることは経験則上自明のところであり、かつ、本件土地の前所有者有限会社米沢地所の社長の兄弟である清井富次の現地案内と、元福島県商工信用組合の社員であつた八木沼邦雄(専門的知識を有していたと思料する)が、原告の本件登記以前に根抵当権の設定登記を本件土地にしていたため、右清井及び八木沼が、まさか他人の土地を本件土地であるとして、現地案内を控訴人の代理人鈴木規之及び根本良文にするはずがないと右両名が信じたことに基づくものであつて、右両名が本件土地の所在を見誤つたことをもつて責めることはできないはずである。

(九)  なお、本件控訴申立において、請求金額を半分に減額したのは、控訴人側にも、現地調査に不十分な点が少しくあつたため、控訴人側の過失割合を五〇パーセントとみて半分の請求をなしたものである。

2  被控訴人国

(一)  地図の写しの交付については、不動産登記法二一条において、何人でも手数料を納付すれば地図の全部または一部の写しの交付を請求することができることとされているが、公図すなわち旧土地台帳附属地図はここにいう地図に含まれない。したがつて、旧土地台帳附属地図についてその写しの必要があるときは、閲覧申請書を提出して必要部分を謄写することが出来ることとなつている。

甲第二号証は、法務局備付の公図の写しであるというが、作成者、作成年月日が不明のうえ公図を正確に謄写していない。

(二)  控訴人は、右公図の原本は、甲第二号証のとおり「六一―六」が上下に分断されている旨主張する。

しかし、仙台法務局で閲覧に供している旧土地台帳附属地図写(乙第六号証)のみならず、仙台市固定資産税課備付図面写(乙第七号証)及び仙台市保管の公図の写し(乙第八号証)でも仙台市滝道六一番六(以下「本件土地」という。)は上下に分断されておらず全体として一筆の土地である。

すなわち、「六一―六」の登記簿謄本(甲第一号証)及び乙第六号証ないし乙第八号証によつても明らかなとなり、所有者である訴外第一物産株式会社が昭和四一年一一月一〇日以降本件土地を数次にわたつて分筆しているのも、本件土地が連続した全体として一筆の土地であるからこそ可能なのであつて、控訴人主張のとおり本件土地が上下に分断されているとすれば、このような分筆はなし得ないことは、登記簿及び公図の記載から明らかである。

(三)  控訴人の損害と公図の記載との因果関係について付言するに、控訴人及びその代理人ら(以下「控訴人ら」という。)が現地案内された土地を極めて軽率に本件土地であると誤信して三〇〇〇万円を訴外伊藤哲らに貸し付けたものであつて、本件損害はもつぱら控訴人らの極めて杜撰な調査に起因するものであり、公図の記載と損害との間に相当因果関係は存在しない。

なお、公図の記載と損害との間に相当因果関係がないとした次の裁判例がある。

一  東京地裁昭和四八年九月一七日判決

(訟務月報一九巻一三号三五ページ)

一  東京地裁昭和五九年一月三〇日判決

(判例時報一一二九号八五ページ)

3 被控訴人市

(一)  乙第六号証の図面(法務局備付)の上部記載の「六一―六」と下部記載の「六一―六」とは図面上続いている同一地番、即ち滝道「六一―六」土地である。乙第六、七号証の図面のとおり「六一―八九」とある右の部分と「六一―二七二、―一八五、―一六一、―一六〇、―一五九」の下の部分とは空白であつて、線によつて切られていない、その空白部分の存在によつて、上部の「六一―六」と下部の「六一―六」とは続いている同一地番であることが明らかである。

(二)  甲第二号証の図面では「六一―八九」の線が、「六一―五四」土地に接している、即ち線によつて切られているように(空間のないように)記載されているようであるが、しかし、この線は写す際の加減によつて、接したようになつたものと思われる(乙第六、七号証の図面と対比して見て)。仮りにこの図面どおり切れておつた(空白がなかつた)としても、この図面の上部にも、下部にも明瞭にしかも一目で、わかるように「六一―六」と記載されているものであるから、公図を見ることにそれ程の知識のないものでも、上と下との同一地番のつながりを図面上で、もつと念入りに調べた筈である、しかも控訴人等が見てきた現地の土地と甲第二号証の図面上部「六一―六」土地にしても、下部「六一―六」土地にしても、その形状において、また現地における四囲の住宅の状況と、図面上における四囲の地番(地割)等が著しく違つていることに気づいた筈である。

(三)  本件土地は山林を宅地造成して、分譲したものであるから(登記簿上あるいは公図上極めて明らかである)、公図と土地現況が、著しく相違している、それが符合しない状態で、現地を分割し、これを公図上に記入するために、現地がないのに公図上では相当広い面積があるようになる。仙台市固定資産評価員またはその補助員は、固定資産の状況について実地調査をなし、その結果に基づいて評価のための集成図(現況図)を作成している。本件土地についても実地調査をなし集成図も作成している。

本件土地についての昭和五一年度の評価については従前主張のとおり電算機の入力票に記入する際の単位を間違えたのであるが、しかし、その後これを修正し納税義務者に通知をなしている。

(四)  固定資産課税台帳に登録されている固定資産の価格は固定資産税の課税標準であつて、土地の時価や取引価格を表現しているものではない。甲第三号証は、本件土地の登記にあたつて、仙台法務局が、登録免許税の徴収上必要ありとして、仙台市長に対する固定資産価格決定通知書の請求(丙第六号証)をなしてきたので、市長は地方税法第四三六条に関する取扱い通達(丙第七号証)に従つて仙台法務局宛に決定通知書(甲第三号証)を作成しこれを右請求書を持参した登記申請人(その委任を受けた者も含む)に交付したものである。しかし、この証明書は目的(登録免許税の徴収)外に使用されるべきものではない(丙第七号証)。

(五)  仮りに控訴人に損害が生じたとしてもそれは、控訴人及びその代理人等の法務局備付公図等を見る知識並びに公図及び登記簿記載の土地を現地において特定しあるいは確認する能力の不足に起因するものであつて、被控訴人発行の固定資産価格決定通知とは何ら関係のないことである。

4 当審における証拠 <略>

理由

一  当裁判所も、原判決と同様に、控訴人の請求を失当として棄却すべきものと判断するのであるが、その理由は次のとおり訂正、補足するほかは原判決の理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。当審で新たに取り調べた証拠によつても以上の認定判断を動かすに足りない。

1  原判決一四枚目裏一〇行目の「不動産登記法」以下、同一五枚目表九行目までを次のとおりに改める。

「国土調査法二〇条一項の規定により登記所に送付された地籍図等を除けば、厳密な測量と調査を経て作成されたものではなく、各筆土地の相互の位置関係、形状、区画線の長短、面積の広狭等の点において現地の実際と符合せず、宅地、田畑、山林等の、公図作成時の地目と現況のいかんにより公図と実際との相違にも大小の差異があり、田畑、山林においてはそれが甚だしく、地図としての正確性及び復元性(現地を示すことができること)に欠け、殊に分筆する場合は不正確な公図上に、実測図を当てはめて適宜分割線を記入し作図するほかないため、その実測にかかる分を除外した残余の部分の図形が著しく実際と相違するに至ることは公知の事実である。しかしながら、公図はこのように実際と符合しない欠点があるものの、土地の位置関係、形状、広狭等を検索し、その大略を知るための有力な手掛りとなりうるものであるところから、所管の法務局においても、現在の公図が不動産登記法一七条の備置を義務づけられた地形図ではなく、これを公開し、閲覧、謄写を許すべき法律上の根拠はないものの、国民の利用に供するため、その閲覧、謄写を便宜的に許容する扱いをしているものであると認められる。

したがつて、公図は以上のような欠点があることを前提としたうえで、土地の位置関係や形状、広狭等を知るための、あくまでも参考資料として公開し、閲覧、謄写に供されているものと解するほかはないから、公図に表示された土地の位置関係や形状、広狭等が現地の実際と符合するや否やの判断は専ら公図を利用する者の調査と検討に委ねられるべきものであり、公図と実際との間に相違があつても、特段の事情がない限り、公図を備置し、閲覧、謄写を許した法務局や国にはこれについて何らの責を負うべき筋合はないというべきである。况んや本件においては、次に述べるように、本件土地の取引をした当事者の殆んど一方的な過失に由来して取引対象土地を誤認したものであり、取引関係者らが通常の注意を尽していればその誤認をさけることができたと考えられるのであるから、国に責任があるとすべき特段の事情もないというべきである。

控訴人は、本件土地について取引をなす以前に、取引関係者が閲覧した公図では甲第二号証に図示されているように、六一番六土地が中間の細い部分において分割線により図面上、上下(西北側と東南側)に分断して図示されており、乙第六、第七号証の図示とは異つていたとし、これを国の責任を負うべき根拠の一つとして主張するのであるが、公図にその主張の如き違いがあつても、これが直ちに国の責任を認めるべき根拠とはなりえないうえ、<証拠略>に照らし、甲第二号証は法務局備付の公図を私人が手書きで写し取つたものであり、そのために不正確に写し取られて公図と異つて六一番六土地が上下に分断された形になつたものであり、公図の表示では上下の部分がその中央部東端で極度に狭まつてはいるが連続しており、分断されてはいなかつたものと認められるのであるから、控訴人の主張は採用できない。」

2  同一五枚目表一〇行目の「しかしながら」を「すなわち」に改める。

3  同一八枚目表四行目の次行以下として次のとおり附加する。

「控訴人は、土地を担保に金員を貸し付ける場合は土地の売買と異なり、当事者間の信頼関係に立ち、公図、地図を持参し、測量士等の専門家を同道して現地を特定することまではしないのが通常であること、また、本件土地取引の当時、控訴人や土地所有者の加藤利正から被控訴人市に対して固定資産評価額の証明申請をなしたとすれば、本件において利用された固定資産価格決定通知書(甲第三号証)と同様の評価額の証明書が交付された筈であること、を指摘し、これを被控訴人国や市の責任を認めるべき根拠として主張しているのであるが、前段の点については取引をなす当事者の調査不十分に基づく危険を第三者たる国の責任に転嫁するにひとしく、国の責任を認める根拠とはなりえないし、後段の点についても、仮定の事実関係をもとにする立論であつて採用できない。これを要するに、本件は不正確な公図や他の目的のために発行された固定資産価格決定通知書を見せられて(伊藤哲や加藤利正がこれを悪用したことが窺われる。)自らの調査を怠り、取引対象の土地の現地とその評価を誤つたことに基づく損失を取引外の第三者である国や市に帰せしめようとするにほかならず、そのような取引上の誤認に基づく危険は取引当事者の責任において回避すべき事柄であり、筋違いであるというべきである。

なお、控訴人は、六一番六の登記簿に記載された地積の表示が現地の実際と異なるのに登記官が職権をもつて地積更正の登記をしないのが違法であるとし、これをも、控訴人の蒙つた損失を賠償すべき国の責任の根拠として主張しているのであるが、登記簿上の地積と実際の地積とが符合しないことが往々にしてありうること、地目が山林である土地においては特にこれが甚だしいことは公知の事実であつて、その間に符合しないところがあるからといつて、取引上蒙つた損失について登記事務を所管する国の責任を追求することが筋違いであることは公図に関して説示したところと同様であり、採用できない。」

二  以上の次第で、原判決(当審において不服の対象とされた部分)は正当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法三八四条一項に従い本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中恒朗 伊藤豊治 富塚圭介)

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